百怪風景

妖怪・怪談の紹介と考察を行うブログです。

ウォーリーを探さないで

 さて、夏も本番になりました。当ブログでは、普段は主に古典的な妖怪の考察と紹介を行っているのですが、今回は夏ということで、筆者が直接収集した怪談をご紹介していきたいと思います。

 

 みなさんは「ウォーリーを探さないで」という恐怖フラッシュを御存知でしょうか?特定のサイトでクリックをすると、下のような画像が急にあらわれ、見た人を驚かせる、という趣向のものであり、2000年代に存在した「検索してはいけない」系列の恐怖フラッシュのひとつです。

 

 

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(『バトル・オブ・エクソシスト―悪夢の25年間』より)

 

 
 「ウォーリーを探さないで」は、上記の画像が(場合によっては「うわぁぁぁぁぁ」という不気味な音声と共に)いきなり表示されるのみであり、「見た人がびっくりするだけ」の他愛もないおふざけフラッシュです(筆者も昔、友人にいきなりパソコンの画面をクリックするように促されて、この画像を見せられたことがありますが、特に何のリアクションも取らなかったので、友人が機嫌を損ねてしまった思い出があります)。

 

 また、この画像は、映画『エクソシスト』の関係者の証言を集めたドキュメンタリーブック、『バトル・オブ・エクソシスト―悪夢の25年間』の表紙であることも判明しており、本物の心霊映像などではない「完全な創作物」であることは間違いありません。

 

 しかし。

 

 「完全な創作」だということと、「我々の日常に影響を与えないこと」は決してイコールではないのです。世の中には、創作に過ぎなかったはずのものが現実世界に影響を与え始める、という例が数多く存在しています。たとえば「噂のマキオ」という怪談は女子高生が創作した「マキオ」という少年にまつわる怪談が、現実に起こり、その女子高生はマキオに襲われ行方不明になる、というものです。そして何よりこの怪談自体が1990年に『世にも奇妙な物語』で語られたフィクションに過ぎません。にも関らず、実際に「マキオを見た」という話はまことしやかに語られ続けています。

 

 今からお話しするのは、筆者が学生時代にある人物(K君とします)から聞いた、この「ウォーリーを探さないで」にまつわるそんな話です。

 

 

 

 K君が小学6年生の頃の話である。パソコンの授業が早く終わり、余った時間で、自由にネットサーフィンをすることを許された生徒たちは、思い思いのサイトを開いて笑いあっていた。そんな中、ある一人の生徒がみんなを驚かせようとして、仲間たちを自分のパソコンの前に集めて「ウォーリーを探さないで」のフラッシュを表示したのだった。一瞬子ども達の悲鳴があがり、驚声はすぐに「びっくりしたー」という談笑に変わるはずだった。しかし、伊藤君という少年だけが、そのフラッシュを見た瞬間に常軌を逸した悲鳴を上げ、そのままガクガクと震えながら腰を抜かして泣き出してしまったのだった。

 

 伊藤君は所謂不良少年だった。しょっちゅう女の子を泣かせたり、他の男子と喧嘩をしたり、万引きをしたりしていた。小学生の、特に男子にとってみれば「人前で泣く」などということは沽券に関わる問題である。ましてや、喧嘩上等を標榜しているようなクラスで一番の不良少年が、「人前で泣く」ということは権威の失墜以外の何物でもない。K君もそれまで伊藤君が泣いているところなどは見たことがなかったし、伊藤君に限らず「そんな泣き方」をしている人間自体を見たことがなかった。

 

 伊藤君は本当に腰を抜かしてしまい、立ち上がることができないようだった。そしてパソコンを指さして、絶叫するような甲高い声で「消せ!消せ!」と叫んでいた。大泣きする幼稚園児でさえ、もう少し理性的な泣き方であるような気がした。

 

 たしかに「ウォーリーを探さないで」は不気味なフラッシュである。けれども、どう考えたってあれは作り物だし、一瞬驚いたとしてもそこまで引きずるようなものではない(現に一緒にフラッシュを見せられた他のクラスメイトも少したじろいでいただけのように見えた)。それにK君の知る限り、伊藤君は特別怖い話が苦手なタイプではなかった(むしろそういう話を馬鹿にしていた節さえある)ので、K君は伊藤君がどうしてあれほど怯えているのかが気になった仕方なかった。けれども、なんとなくそれは触れてはいけない話題のような気がして、クラスの誰も伊藤君にその話をすることはなくその日は終わった(下手にいじって伊藤君の機嫌を損ねることを恐れていたのかもしれない)。

 

 しかし次の日の放課後。どうしても気になったK君は思い切って昨日のことについて聞いてみることにした。

 

「なぁ伊藤君。なんで昨日のパソコンの授業であんなに怖がってたん?あんなん作りもんやで」

 

 伊藤君はK君をちらりと睨みつけると「そんなん知ってるわ」と言った。

 

「じゃあなんであんな怖がってたん?」と重ねて聞くと、伊藤君は「どうせ言うても信じひんやろ」と言った。そして、「それに思い出したない」と付け加えた。

 

 そこまで聞いてK君は好奇心を抑えることができなくなった。

 

「絶対信じるし誰にも言わんから教えて」

 

 K君がそう言うと、伊藤君はため息をつき、話始めた。

 

 

 

 あれはな、俺が小2の時の話やったと思う。俺の家のすぐ近くにじいちゃんの家があるんやけどな。夏休みはよくじいちゃん家に泊ってた。じいちゃんとばあちゃんは一階で寝るんやけど、俺は二階にある部屋で自由に寝てよかったんや。自分の家やと兄ちゃんと部屋一緒やったからそれが嫌でな。だから、夏休みとかはしょっちゅうじいちゃん家で二階を広々と使って寝てた。

 

 でな、その日もじいちゃん家の二階で寝とったんや。ほんならな、夜中の二時頃に目覚めてん。なんか一階の廊下をぺたぺた歩く音が聞こえてきたんや。じいちゃんかばあちゃんが起きてトイレでも行こうとしてるんかな、と思ったよ。でもなしばらくするとその音が「ぺたぺた」から「ミシッ」に変わった。階段を登ろうとしてる音や。これは変やなって思った。だってトイレは一階にしかないし、何よりその音はたった一回で消えてもうたんや。階段を一段だけ上がる音が聞こえて、その後は階段を登る音はもちろん、廊下を歩いて帰っていくような音も聞こえへんようになった。

 

 つまり、「それ」はずっと階段の一段目に立って止まっとる、いうことや。よう考えたらめちゃめちゃ気持ち悪いよな。でもな、その時はなんとも思わんかった。気付いたら寝てもうてた。

 

 でな、次の日、じいちゃんとばあちゃんに確認したんや。夜中の二時ごろに目覚ましてうろうろしてへんかったか、って。でも二人とも昨日は一回も夜中に目覚ましてない、って言うねん。二人ともまだボケるような歳でもないし、それでまぁ俺も夢やったんかな、って思った。

 

 でもその日の晩も同じやった。また夜中の二時ごろに目が覚めて、ぺたぺた廊下を歩く音が一階から聞こえる。でもな、今度は前の日とは一つだけ違うかった。階段を登る音がな

 

「ミシッ、ミシッ」

 

 今度は二回聞こえたんや。それでな、俺はピンと来た。

 

 次の日の朝、俺、階段の数を数えてみたんや。ほんならな、階段の数が十三段やった。やっぱりな、と思った。有名な十三階段や。なんか十三階段は不吉で、毎晩一段ずつ幽霊があがって来て、十三日目に殺される、とかいう話あるやろ?テレビで見たことあった。俺はそんなん全然ビビらんから、むしろ幽霊の方を焦らしたろう、と思った。せっかく毎日一段ずつ頑張って登ってきよるんやから、十二日目まで泳がして、十三日目に家帰ったろ、と思ったんや。せっかく二週間近く頑張ったのに最後で台無しにしたろって。そんだらまぁわくわくしてきた。

 

 で、その日の晩。やっぱり、夜中の二時に目が覚めた。一階の廊下からはぺたぺたいう音が聞こえてきた。ああ、今日も来たなって思ったよ。今日は三段登ってくるはずや。そんなら

 

「ミシッ、ミシッ、ミシッ…」

 

 やっぱり三段登る音が聞こえた。アホやなぁ、って思って笑けてきた。でも、そう思った瞬間に

 

「ミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシ!!!!!!」

 

 すごい勢いでなんかが駆け上がってくる音が聞こえた。めちゃめちゃびっくりした。でも気付いたら身体が全く動かんようになってんねん。でな、襖の前に誰かが立っててこっちを見てるのがわるんや。俺はそっちを見たくないんやけど、顔がな、勝手にそっちに向いていくねん。誰かに無理矢理頭を掴まれてるみたいに。で、そっちを見たらな

 

 襖の隙間から人影が覗いとってん。

 

 その人影がな、あいつと全く同じ顔をしとったんや。昨日のパソコンの時間にフラッシュで出てきたあの作り物のはずのあいつと。